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横浜地方裁判所川崎支部 昭和49年(ワ)123号 判決 1975年12月15日

原告 渡部有幸

<ほか三名>

原告ら訴訟代理人弁護士 渡辺一成

同 大倉忠夫

被告 日本ユニカー株式会社

右代表者代表取締役 小林是太

右訴訟代理人弁護士 渡辺修

同 竹内桃太郎

同 吉沢貞男

同 宮本光雄

同 山西克彦

主文

一、原告らの請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告ら)

「一、被告は原告らに対し各金一〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四九年三月一二日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。二、被告は原告らに対し別紙念書を交付せよ。三、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

(被告)

主文同旨の判決。

≪以下事実省略≫

理由

一、請求原因一の事実中、原告渡部、同大西、同鳥羽及び被告会社に関する事実(但し、原告鳥羽が共闘会議の代表者の一人であるとの点を除く。)被告が昭和四七年二月一四日訴外桜井和元を解雇したこと、同四九年三月一一日午前六時五五分頃、原告らを含む二〇数名が団交申入書と題する書面を持参して工業所を訪れ、守衛所に右団交申入書を差し出したこと、同七時一五分頃交替勤務者の交替があったこと、同八時一五分頃、工業所総務課長重田三郎が原告らを含む交渉団に対し、不法侵入であるとして構外への退去を要求し、同八時四五分頃、再度退去を要求したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二、交渉団が昭和四九年三月一一日工業所の構内に入るときから出るまでの経緯について検討する。

右一の争いがない事実に、≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実を認めることができる。即ち、

1  (交渉団が工業所の正門から入構したときの状況) 昭和四九年三月一一日午前六時五五分頃、守衛若尾公男は正門の外側で立哨の勤務についており、正門を入って左側にある守衛所内では勤務中(午前七時四五分まで)の守衛簗田開蔵が受付カウンター附近で、副守衛長佐野保夫が奥の方でそれぞれ執務しており、その外、同日午前七時四五分からの勤務につくため出勤してきた守衛西村季三男が守衛所内で着換えをしていた。その頃、原告らを含む約二〇名の共闘会議構成員から成る交渉団がバスで正門附近に到着し、共闘会議の代表者の一人である原告鳥羽外三、四人が最初に正門を通って工業所構内に入構し、そのまま正門守衛所に向ったが、若尾守衛は、これを見てやや不審に思い、右原告らの所へ近付いた。原告鳥羽が、守衛所受付の窓口で、「関さんに会いたい。」旨告げたところ、簗田守衛が応待に出たのであるが、同人としては、時刻が早いので関所長のことは全く念頭になく、製造課に関という社員が二人いるので、「どちらの関さんですか。」と尋ね、さらに傍の電話番号簿を調べようとして、「どちらさんですか。」と尋ね返したが、原告鳥羽は、これに答えず、持参した団交申入書(原告大西、同渡部及び日本ユニカー支援共闘名議で工業所長関誠宛に、「大西君、桜井君、渡部君の解雇を撤回せよ」等と記載したもの)を二つ折のまま黙って守衛所受付カウンター上に差し出した。それとほとんど同時頃、すでに原告大西、同渡部、同藤井を含む交渉団の残りの者が正門を通って入構していたのであるが、守衛所内にいた西村守衛が、その中に原告大西を認めるや、「大西だ。」と叫んで守衛所を飛び出し、続いて同守衛所内にいた佐野副守衛長及び簗田守衛も飛び出した。すると、交渉団のうち約三名が工業所中門(工場装置区域への出入口)方向へ走って行ったので、簗田、佐野及び若尾各守衛がこれを追いかけ、中門附近でこれを制止して押し戻した。その頃西村守衛は、原告大西を見付けてその前に立ちはだかるようにして「入っては困る。」といったが、交渉団の数名の者に間を隔てられ、その中の一人から平手で顔面を叩かれたので、西村守衛も平手で叩き返した。このようにして、交渉団は、工業所構内の前記守衛所前及び同所から約十数メートル中へ入った事務所棟前附近に入構した。

2  (交渉団の入構後約一〇分間の状況) 前記四名の守衛の外、南門から小高守衛、裏門から秋山守衛がかけつけ、同人らは、事務所棟前附近に集っている交渉団に対し、「構内に入っては困る。」「構内から出て行ってくれ。」「入場票を書いてくれ。」「関工業所長はいない。」旨述べて工業所構内からの退去を交々要求し、かつ説得したが、交渉団は「団交に来たのだ。団交申入書を渡したからよい。」「ここで関所長を待つ。」旨主張し、両者の間に遣り取りがあった。この間、佐野副守衛長は、交渉団の中に原告大西、同渡部の姿を認め、これに近付こうとしたが、交渉団の者に割って入られ、また後ろから羽交い締めにされるなどして妨げられた。

3  (交渉団の座り込みから重田課長の第一回の退去要求がなされるまで) 同七時一〇分頃になると、交渉団は、所携のゼッケン、鉢巻をそれぞれの胸部、背部等につけ、同二〇分頃、関所長を待つべく、隊形を作り一団となって前記事務所棟前附近に座り込み、原告渡部、同大西は、通りかかる交替勤務の従業員らに対し、ハンドマイクロフォンを使って交渉団の来意、目的等を訴えるアジ演説を続けていた。これに対し守衛らは、なおも交渉団に退去を要求し説得を続けたが埓があかず、交替勤務の守衛(守衛長竹内、守衛増子、同鈴木)が出勤してきて守衛の人数も増えたので、竹内守衛長は佐野副守衛長と協議し、一人ずつでもよいから構外に出すこととし、同二五分頃から守衛らは、座り込んでいる交渉団を排除し始め、まず、守衛四、五人が、交渉団の一人が足をバタバタさせて抵抗するのも構わず、その手足を持って運び、正門から押し出し、次に旗竿を振り回している一人に目標を定め、その者及び一緒に抵抗した一人を正門から出し、またこれを妨害しようとして正門附近まで追ってきた一人も排除した。その後、右排除された者らが、表道路を南門の方へ走ったので、竹内守衛長及び佐野副守衛長が座り込みの場所に残り、西村、簗田、小高、秋山、鈴木各守衛が、入門を阻止するため構内を南門の方へ追って行き、また正門では若尾守衛が門を飛び越えて入ろうとする者を警戒していた。そのうち、西村守衛を除くその余の守衛が座り込みの場所に戻ったので、再び前と同様の方法で、一人ずつ排除しようとかかった。しかし、交渉団は、座り込んだまま互いにスクラムを組んだり、つかまり合ったりし、あるいは手足をばたつかせて抵抗し、守衛が交渉団を一人ずつ引き出そうとするのを妨げ、また守衛が手足をつかんで引っ張り出そうとすると、その上に全身でのしかかったり、手近の守衛の足首をつかんで引っ張ったりし(≪証拠省略≫によれば、原告大西が若尾守衛の足首をつかんで引っ張っている)、交渉団の某がそれでもなお守衛らによって一、二メートル位引きずり出されると他の者が某の身体をつかんで引き戻そうとし、両者の引っ張り合いの形となったりするなど排除の攻防を巡って守衛らと交渉団との間にかなりのもみ合いが続いたが、守衛らは、ついに一人も排除することができなかった。

4  (重田課長の第一回の退去要求から交渉団の退去まで) 工業所の警備責任者である工業所総務部総務課長重田三郎が同八時一〇分頃出勤してきたが、その頃、前記守衛らは、交渉団の抵抗にあって排除ができないのでこれを中止し、監視の態勢にあり、交渉団の中からは原告渡部、同大西が立ち上り、ハンドマイクロフォンを使ってアジ演説をしていた。重田課長は、竹内守衛長から経過報告を聞き、直ちに、前記団交申入書を交渉団に返還するよう指示すると共に、同八時一五分頃ハンドマイクロフォンを使って交渉団に対し、不法侵入であるから構外に退去するよう要求した(なお同課長は、その直後一一〇番に通報した)。守衛らは、右課長の退去要求に呼応し、交渉団に対し退去を求め、交渉団はこれに反対し、両者の間に激しい口論の応酬が行われ、守衛らはなお排除行為を続けたが、結局、交渉団の抵抗にあって成功しなかった。その頃、交渉団を応援すると認められる者が、正門を乗り越える気配を示していた。そして、重田課長が、同八時四五分頃交渉団の周囲を廻りながら、再びハンドマイクロフォンで、不法侵入であり業務妨害にもなるとして退去を要求したところ、まもなく交渉団も、これ以上座り込みを継続しても意味はないと判断したため、座り込みを解いて立ち上り、シュプレヒコールをしたあと、原告大西、同渡部らを先頭にほぼ三列に隊形を組みジグザグにデモ行進をしながら正門に向ったので、守衛、管理職者らは、これを取囲み押し出すようにして正門から構外へ退去させた。

5  (原告らに関する状況のうち、右に認定した以外のもの) 前認定のとおり、当初交渉団が座り込み、原告渡部がハンドマイクロフォンでアジ演説をしているとき、守衛がこれをやめさせるため、ハンドマイクロフォンを取ろうとしたり、同原告の手を叩いたりした。その後、前認定の排除行為がなされた際、守衛らは、被告会社から解雇通知を受けている原告渡部、同大西をまず排除の目標とし、原告渡部が交渉団に背を向けて立っているとき、守衛が急にその足を前方からすくって同原告を背後に引き倒し、また、守衛が、同原告を引き出すため、その手足を持って強く引っ張ると、交渉団がそれをさせまいとして同原告の身体を押えたり、守衛が同原告の身体を一メートル余アスファルトの上を引きずり出すと、交渉団がすぐこれを引っ張って戻したりした。こうしたもみ合いの間に同原告は、守衛から顔面を叩かれた。原告大西も、座り込んだ交渉団の前面にいたところ、竹内守衛長、佐野副守衛長、若尾守衛らに足を引っ張られ、さらに腕、足をつかまれて引きずられ、原告藤井は、座り込んでいた際、一人ずつ排除されるのを防ぐため、前にいた交渉団の仲間の腰バンドをつかんでいたところ、秋山守衛がこれをはずそうとして同原告の左手拇指をつかみ、これを強く逆に反らすようにし、原告鳥羽は、守衛から髪の毛、手、足などを引っ張られた。

以上のとおりである。≪証拠省略≫中、入構した当初、簗田守衛が団交申入書を差し出した原告鳥羽に対し、「そこで待っていなさい。」といった旨、入構直後交渉団のうち二、三人が工業所中門方向へ走って行った事実はない旨及び交渉団は守衛らに対し直接手を加えたり、排除行為に対し積極的に抵抗をしたりしたことはない旨の各供述は、前認定の守衛所受付窓口における簗田守衛と原告鳥羽との遣り取り及び前掲各証拠に照らしたやすく措信することができない。

三、右に認定したところによれば、守衛らは、交渉団を構外に排除しようとした際、原告ら四名に対して次のように有形力を行使した、即ち、ハンドマイクロフォンを取り上げようとする、これを持つ手を叩く、足をすくって引き倒す、手足を持って引っ張りまたは引きずる、顔面を叩く、左手拇指を強くつかんで逆に反らす、髪の毛を引っ張るなどの行為をしたものということができる。

そして、右二の3ないし5の認定事実に、≪証拠省略≫を総合すれば、守衛らの排除と交渉団の抵抗との一連のもみ合いの過程において、原告渡部は、全治五日間の顔面、右手、腰部打撲の傷害を受け、着用していた黒色ジャンパーの右袖付け根部分(約二六センチメートル)、左袖付け根部分(約六・五センチメートル)が破損されたこと、同藤井は、約二週間の休業と通院加療を要する左手拇指捻挫の傷害を受け、着用していた紺色コールテン上衣の背中部分二か所(約七四センチメートル及び約三〇センチメートル)、右袖付け根部分(約二〇センチメートル)が破損されたこと、同鳥羽は、着用していた薄緑色ジャンパーの右袖付け根部分(約一〇センチメートル)、左袖付け根部分(約一五センチメートル)、左脇下部分(約二〇センチメートル)が破損されたことを認めることができ、右認定を動かすに足りる証拠はない。原告大西は、右一連のもみ合いの過程における守衛らの暴行行為により、腕の擦過傷、背、大腿部打撲の傷害を受けたと主張し、≪証拠省略≫中にも同旨の供述があるけれども、右について医師の診断書もなく、前認定の経過からみても、たやすくその傷害の事実を認めることはできない。他にも、この点につき適切な証拠はない。

四、被告の、正当防衛行為であるとの抗弁について検討する。

1  原告ら四名を含む交渉団の入構及び座り込みなどの不法行為性について。

工業所が超高圧可燃性ガスを取扱う工場であること、被告は、外来者の工業所構内への立入りに関し入場票記入の手続を定めていること、工業所の正門及び南門に立哨を立てていることは当事者間に争いがなく、右争いがない事実に、≪証拠省略≫を総合すれば、

(一)  被告は、工業所が超高圧可燃性ガスを取扱う工場であることから、保安上、企業秘密上外来者の工業所構内への無断立入りを規制するため、構内正門及び中門付近に守衛所を設けて守衛を置き、正門及び南門に立哨を立て、正門に外来者は必ず守衛所に立寄るようにとの掲示を出していること、外来者が構内入構を希望する場合には、原則として、まず、守衛所において、工業所従業員の何某にいかなる用件で面会を希望するかを明らかにさせ、これに基づき守衛は被面会者に電話連絡をとり、被面会者が在社していれば外来者の来意を伝え、面会のため通してよいかを質し、被面会者の了解及び面会場所等の指示があれば、次に守衛所において外来者に入場票なるカードに所定の事項(入場者の住所、氏名、入場目的、具体的な行先等)を記載させたうえ番号入りのバッチを交付して入構を許すこと、しかし、外来者でも工業所に常時出入りする取引業者の関係者については、事前にその者の顔写真が添付され、住所氏名が記載された申告書が業者から提出され、それに対し被告会社から通門証(写真貼付、住所氏名・会社名記載)が交付され、所用のため入構する際、右通門証を携帯提示することにより入構を許可されること、また、取引業者の関係者で立哨及び守衛に顔見知りの者は、立哨及び守衛の了解のもとに守衛所に立寄らずに入構することができること、

(二)  原告渡部、同大西は被告会社により解雇通告を受けた者であり、同大西は従来から再三就労を企て、工業所の鉄柵を越えて入構しようとして守衛らに拒まれたことがあること、昭和四九年二月八日原告鳥羽、同藤井を代表格として共闘会議が結成されたが、原告渡部及び同大西は、右共闘会議の人々と共に翌九日被告会社本社に押しかけ、社長に団交を要求し、被告会社の退去要求に応ぜず抗議デモ等を行い、混乱の末約三時間にわたり本社業務を妨害したという問題を起こしていることから、被告会社としては、原告渡部、同大西の両名はもとより、右共闘会議の人々も絶対に工業所へ入構させない方針をとり、この旨守衛らに徹底させていたこと、

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そこで、本件の昭和四九年三月一一日における交渉団の入構等の行為を見るに、≪証拠省略≫によれば、交渉団のうち原告渡部、同大西は被告会社の被解雇者であり、その余の者はもともと被告会社の従業員ではなかったことが認められるから、交渉団はすべて外来者である。しかるに、交渉団が入構したときの状況は、前記二の1において認定したとおり、原告鳥羽が簗田守衛に対し「関さんに会いたい。」と述べ、黙って団交申入書を差し出したのみで、所定の入場票記入等の手続を経ることなく入構してしまったのであり、被告会社においては、原告渡部、同大西及び共闘会議に属する者を一切入構させない方針であったのであるから、もし交渉団が右所定の手続をとったとすれば、必ず入構を拒否される状況にあったわけであり、従来の経過によれば、原告ら四名も、右のように拒否されるであろうことを予知していたことが推認され、したがってまた、前記入構時の状況をあわせ考えれば、原告らは、右拒否に会うことを避けるために所定の手続をとらなかったものと推認されるのであって、右認定を動かすに足りる証拠はない。しかも、交渉団は、前認定のとおり、入構後守衛から再三退去方を求められ、さらに午前八時一五〇頃重田課長から第一回の退去要求を受けたにも拘らず、工業所構内に座り込みを続け、同四五分頃重田課長から第二回の退去要求を受け、ようやく退去するに至ったのである。

右にみたところによれば、交渉団の右入構は、工業所の工場としての秩序、平穏、業務を害する不法行為(不法な住居侵入)であるといわざるをえず、さらに、そのまま工業所構内に留まり、守衛ら及び総務課長重田の再三にわたる工業所構外への退去の要求に応ぜずに座り込みを続け、その間ハンドマイクロフォンで交渉団の来意、目的を訴えて気勢を上げる等の一連の行為も同様に不法行為(不法な不退去)たるを免れないと言うべきである。

原告らは、交渉団は被告会社側責任者と話合いによる交渉をするという正当な目的をもって、平穏に、かつ、守衛の指示に従って入構したものであり、被告会社の許可があったものというべきであると主張する。しかし、交渉団が平穏に、かつ、守衛の指示に従って入構したものでないことは、前認定により明らかである。そして、前認定によれば、交渉団は、被告大西、同渡部ほか一名の解雇撤回につき工業所長との話合いによる交渉を求めて入構したことが窺われるけれども、前記共闘会議ないし交渉団の性格からみると、右交渉の要求は、労働組合の団体交渉の要求とは自ら性質を異にし、前記交渉要求が権利として是認されるものではなく、したがって、被告会社は交渉団の交渉のための面会要求を拒否しうるものであるから、原告らの右主張は、採用することができない。

2  守衛らの前記有形力の行使が、被告会社の権利を防衛するためやむことをえないでなされたものかどうかについて。

交渉団が不法に入構し、座り込み、あるいはアジ演説をして気勢を挙げることが、工業所の秩序と平穏とを害し、工業所の業務を妨げるものであることはいうまでもない。現に、≪証拠省略≫によれば、交渉団が入構していた約一時間五〇分の間、朝の出勤バスは正門から入ることができないで裏門から入らざるをえず、また、各門が閉鎖されたため、被告会社の出荷関係のトラック及び取引業者の車などで南門が非常に混雑したことが認められるのである。そして、かような被告会社の損害は、交渉団が入構している限り増大するのであるから、被告会社が速やかにその損害を防止するため、自ら守衛の手によって交渉団を構外へ排除する必要のあったことは当然である。守衛らは、右排除の基本的な方法として交渉団のうちから一人ずつを構外へ連れ出すこととしたのであるが、双方の人数などを考慮すると、相当な方法であったということができる。この場合、交渉団は、座り込んでおり、一人ずつ引き出されないようスクラムを組み、互につかまり合っているのであるから、守衛としては、相手の手足をつかんでかなり強く引っ張らざるをえないし、守衛が引っ張るところを交渉団の者が、全身でのしかかったり、引き戻そうとすれば、守衛も一属強く引っ張ることになり、引きずる結果になることもある。これらは、排除とこれに対する抵抗の関係から当然の成行といいうる。また、被解雇者である原告渡部らが交渉団の先頭に立つ形でアジ演説をしているのであるから、守衛がそのマイクロフォンを取り上げようとしたり、手を叩いたり、足をすくって引き倒す行為に及んでも、それは、少しでも早く構内の秩序と平穏とを回復するためのものと解され、当時の緊迫した雰囲気からみれば無理からぬところである。相手が前の者のバンドをつかんではなさないとき、排除の手段として、その手をはなさせるため、拇指を強くつかんで逆に反らす行為も、排除が急を要することなどから、右と同様に評価することができる。もみ合いになった場合、顔面を叩いたり、髪を引っ張ったりすることも、前認定の程度のものはやむをえないものがある。これを要するに、前記三に認定した守衛らの有形力の行使は、すべてやむをえないものであったといわざるをえないのである。また、前認定の、原告らが受けた身体傷害及び着衣の損傷も、交渉団が行った抵抗の態様及び程度などとあわせ考えるときは、これをもって、直ちに、守衛らの行為が必要の程度を越えたものとする理由とすることはできない。以上のことは、守衛らが、当初四人を排除した後、二度目の排除にかかってからは、ついに一人も排除することができなかったことからも首肯することができるであろう。

3  被告の抗弁は理由がある。守衛らの行為は不法行為を構成しない。

五、以上説示したとおりであるから、原告らの損害賠償請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。また、原告らの別紙念書の交付を求める請求は、さきに説示したところにより、その前提となる主張事実を肯認することができないばかりでなく、実定法上の根拠を欠くものであるから、いずれにしても失当である。

よって、原告らの請求をすべて棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉田洋一 裁判官 原健三郎 樋口直)

<以下省略>

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